今や幻の新幹線を見に行ってきました!
日本が誇る高速鉄道、新幹線。誰もが一度は乗った事があったり、見た事があったりするのではないでしょうか。今の新幹線といえば、何と言ってもスピードとかっこいい車両。最高時速300km/hという高速運転ができる上に、N700系E5系と言った子供にも大人気のカッコいい形をしていますが、実はその背景には今の新幹線になるまでの発展を陰から支えた車両が存在していました。その車両たちは一部を除き今は走っておらず、鉄道保存施設にて保存されており普段お目にかかる事はできないのですが、滋賀県で目にする事ができる施設があるので、実際に見に行ってきました。

場所はJR米原駅から南に徒歩約10分の位置にある新幹線高速試験車両保存場。そこには普段見る新幹線や今までに走っていた新幹線とは少し違う顔立ちの新幹線が並んでいました。それもそのはず、この車両たちは全て新幹線高速試験車両と言い、新幹線を走らせる上で安全な走行を保障する為の実地試験を行う為に作られた車両なのです。
新幹線の試験車両と言えばドクターイエローもそうでは無いのか、という疑問もでると思いますが、先に結論を話しますとその通りです。確かにドクターイエローも試験車両ですが厳密には行う試験内容が違います。ドクターイエローは線路のゆがみや電気、信号設備を検査する為に作られたのに対し、今回見てきた車両たちは新幹線の走行時の騒音や限界速度を観測する為に作られました。つまり、ドクターイエローは新幹線が安全に走れる様にする為に作られ、今回見てきた車両はいかに新幹線を静かに、早く走らせられるかを実験する為に作られたという違いがあるのです。
話を戻しまして、今回見てきた車両たちは何れもそのライバルである飛行機よりもお客さんにたくさん乗ってもらう為に、様々な工夫がされています。今回は撮ってきた写真と共に軽く車両の説明をしたいと思います。

WIN350の写真

WIN350
先述にもありましたが、新幹線の最大のライバルといえば何と言っても飛行機。1990年頃、山陽新幹線は飛行機との競合で非常に過酷な状況下に置かれていました。理由の一つとして福岡ー大阪間では飛行機の方がアクセスが抜群によかった為です。更に当時関西空港の開港も控えており競合がより熾烈な戦いになる事が予想されていました。当然、似た路線を行く山陽新幹線としてはたまったものではありません。そこで将来競争力を確保するためにより早い速度を目指した高速試験車両「WIN350」という車両が誕生しました。「WIN350」は「West Japan Railway’s Innovation for the operation at 350km/h」の略で、日本語に訳すと「時速350km運転の為のJR西日本の革新的な技術開発」となります。
この車両の特徴は車高で高さは3m30cm、車内の高さ192cmと新幹線の中ではかなり低い設計でした。これは走行時正面からぶつかる空気の量を減らし、騒音を抑える為なのです。それにしてもこの車両、どこか見覚えのある形をしていませんか?実はこの車両、後の500系新幹線の技術開発を行う車両としても造られていたのです。そのため形式も「500系900番台」と「500系」の一員である事を名乗っています。いわゆる「500系」のご先祖さまと言ったところでしょうか。そのため若干形が似ています。
試験の結果は見事掲げた目標通り、350km/hの走行に成功しました。しかし、環境省が示す騒音基準を抑えられなかったり加速、ブレーキ性能等の問題が残り、最終的に後に誕生した500系は最高時速300系km/hで運転する事とされました。

300Xの写真

300X
山陽新幹線が時速300kmでの走行が可能となる事が判明した一方、東海道新幹線にも動きがありました。1992年、当時としては最高速度を誇る270km/hの走行を実現させた300系が誕生し、東京と大阪の間を2時間半で結んでいました。しかしこの300系には勾配がある区間とカーブがきつい区間では速度がかなり落ちてしまうという欠点がありました。10‰(1km進むと10m上がる計算)の勾配がある区間では260km/hまでしか上がらず、カーブの区間では更に遅い250km/h以下まで速度を落とさなければならない区間もあり、現在の性能ではまだ本領発揮をしていない飛行機が本格的に競争に肩を並べてきた時、打ち勝て無いのでは無いかと言う懸念がありました。そこで東海道新幹線の管轄であるJR東海は「更なるスピード、サービスが必要でより一層の技術開発が必要不可欠である」となり、1990年の計画開始から約5年の歳月を経て「300X」が製造されました。課題となっていた走行システムの安定性とカーブをより高速で走行する為の装置を搭載し、当時の新幹線には無かった未知の技術を詰め込んだ最先端の新幹線となっていました。
この車両の特徴としては、先頭車両の形状です。一般的には先頭車両の形状は前後全く同じですが、何とこの「300X」、前後で全く違う形をしているのです。片方はカスプ型という現在の「N700系」に似た形、もう片方はラウンドウェッジ型と言う「300系」の形状に丸みを帯びた形と言う明らかに異なる、まるで2つの電車を1つにまとめた様な編成になっていました。実はこの特徴は先述の「WIN350」にもあるのですが、「300X」ほどの違いは見受けられません。何れも、異なる形状になっているのはそれぞれの先頭車両に当たる空気の流れを観察する為で、どちらの型がより走行時最適な先頭の形状かを観測し、構築する為形状が異なっています。
デビューから7年間試験を行い、様々な失敗を繰り返しながらも貴重なデータも残しました。その中で驚くべき結果が出たのがスピード、何と京都ー米原間で最高時速443km/hを観測したのです。これはリニアを除く国内の鉄道最速の記録なのだそうです。未だにこの記録は破られていません。つまり新幹線は本気を出すと実は400km/h出す事が出来ると言う事になります。すごいですよね。「300X」の引退後、残されたデータから引き継ぎがされ、先頭車両の構造は「700系」に、装置は「N700系」に活かされ、「300X」が残した技術は現代の新幹線の礎となっていきました。

STAR21の写真

STAR21
東海道、山陽新幹線で様々な試験が行われて来ましたが、当然東日本側でも同様の試験が行われてきました。現在では「ALFA-X」と言う試験車両が試験を続けていますがその祖先とも言える車両がこの「STAR21」です。正式名称は「Superior Train for Advanced Railway toward the 21st century」、日本語に訳すと「21世紀の素晴らしい電車」となり、英文の頭文字をとったアルファベットが愛称になりました。日本の新幹線は住宅密集地を走行する区間がある為、騒音に対する規制が厳しくなっています。その為、単に高速走行を可能にしても騒音が大きければ運転できません。この問題を打開する為、環境性能を維持しつつ最高速度を高める為のデータを収集する目的で製造されました。
この試験車両の特徴は車両が2つの編成あった事です。その理由は走行装置を比較する為で、1種は従来の新幹線と同様の台車(車輪)を使用し、もう1種は車体と車体の間に台車を装備させる珍しい構造が採用されていました。これによって乗り心地や静粛性を比較できるようになっています。この車両の試験目的は300km/hでの営業運転の実現で、その目的を達成させる為にスピードのその到達時間の短縮化や騒音の抑制化を目指し、様々な工夫がされたこの車両の試験結果は見事目標の最高速度400km/hを超え425km/hを記録、その記録から東北新幹線の最高速度320km/hに受け継がれ、騒音等のデータも後に登場する新幹線に受け継がれました。

新幹線の速く快適な旅にする為に影で新幹線技術を築き上げてきた新幹線高速試験車両。これらの試験車によって現代の新幹線ができあがりました。しかし、新幹線の進化はこれだけに収まらず、現在も各路線に試験車両を所有し影で試験を行い続けています。
まだ見ぬ次世代の新幹線の礎になる様、技術開発の発展を裏で活躍し続けいく事でしょう。